鋸谷式間伐の研修に参加して
水 野 克 郎
先日、長野県小谷(おたり)村において開催された、鋸谷式間伐の提唱者の鋸谷茂(おがやしげる)さんの「素人にも出来る山の手入れ新技術」と題して行われた研修会に参加してきました。目からウロコという感じで、この研修に参加してきたので、紙面をお借りしてその報告をします。
「鋸谷式間伐」とは間伐遅れのスギヒノキの人工林を健全な植生の森によみがえらせる間伐技術です。
まず、鋸谷さんは「山はスギヒノキを育てる畑ではない」といっていました。これが、鋸谷式間伐のキーワードになります。各地のスギの伝統的な産地と言われている所はスギ・ヒノキを植え、育てるのに肥料をやって育成している所がある、畑も同じですが、単一作物を連作して作るにはどうしても地力がなくなってきます、それを補うためです。しかし通常の山は肥料で補わなくても自然に、バランスよく全ての植物が成長します。森林は存在するそれだけで、自立的に養分が循環するようになっています。そうなってはじめて山の本来持っている水源涵養や、治山の機能が発揮できるようになります。鋸谷さんはこの原理原則をそのまま取り入れ、荒れた人工林を再現するにはどうしたらいいのかと考え工夫し実践している方です。
全国の人工林(スギヒノキ)はほとんどが有名産地の育成方法を学びそれに従って手入れをしているところが多いのです。戦後の荒廃した山を変えるべく植林推進で全国の山々を一斉に雑木林の山もはげ山もスギヒノキの山に変えていくような国家的プロジェクトがありました、当然補助金も出ましたので全国的な植林運動でした。しかし今、木材は価格の安い輸入材が大勢を占めるようで、さらに木材の利用価値も、材料の多角化で低下してきており、植樹して30年から40年を経過してきた今、この人工林に手を入れないといけないのですが、現在では手間賃にもならないため各地で人工林が放置され、荒廃して、雪害木等の倒木や、表土の流出等で話題になっているところです。
鋸谷さんはそんな中で、短期間で、スギ・ヒノキが元気に枝を張り下層に他種類の樹木等の植生が混在する健全な複層林(自然林にちかい森)に更新させ木材として出荷可能な大経材に育成することが出来るような手入れの方法を考案し、提唱され各地で講演をして推進されています。
私は論理的なことは弱いので、詳細は省きますが気がついた点をご報告します。以下ポイントを述べますが、詳しくは「図解これならできる山づくり」鋸谷茂・大内正伸著 農文協刊が発行されていますので、興味のある方は参考にしてください。書店で求めることが出来ます。
<鋸谷式間伐のコンセプト>
・手入れの方法
1 折れない木を残す
2 植裁木が、優位になる密度管理(密度管理竿で間伐材を選定する)
3 手遅れの山は「巻枯らし間伐」
の3点がポイントになります。丈夫な木を最大限に成長出来る環境を作ってあげるため理想のバランスの数値を考え出し、思い切った間伐をして環境を整え、育成する。一方では、密植されそのままで成長した線香林の対応として、間伐木を切り倒さないで枯れたまま残して育成木の支えになるよう考案している。大経材を早く育てるように工夫している。合理的な方法であると思いました。
では、間伐の手順を紹介してみますと・・・
・間伐の手順
2 ツル切り
3 不要木伐倒(枯・病・曲)
4 樹高計測(伐倒計測)
5 形状比70の胸高直径算出(形状比:高さ÷直径)
6 残す木にテープ付け(良木選定、密度管理竿を使い数値表を見て誰でも出来る)
7 伐倒(安全確認・方向確認)
8 道・沢の倒木処理
9 間伐を進める時に枝打ちをします
この鋸谷式間伐で間伐を行えば省エネで、スパンの長い、結果として豊かな人工林造りが出来ます、今までは農水省もなかなか認めてきませんでしたが、昨年頃からこの鋸谷式間伐の方式を認め間伐補助金も手当てされることになったようです。鋸谷さんはずいぶん時間がかかったとおっしゃっていました。体制を変革することは時間がかかり、ねばり強い努力が必要なのですね。
こうした間伐を10年程度のスパンで2、3回行なえば、線香林のようだった間伐遅れの林も大経材になって、木材としての用途が広がり、価値も出てくるようになるようです。
(大経材とは直径60cm以上の材をいう)
理論的なことは、掲載書に譲るとして、研修を聞いてきたものとしては、今までの間伐方法の概念で考えるといきなり別の世界で考えなくてはいけないようでして、はじめて聞いてびっくりしましたが、話は筋が通り、一つ一つ納得のゆくことで自然の理にかなっています、又、これまでの鋸谷さんの実践に裏付けられた、簡単で、費用が少なく済み、所要時間も少なく、長期間のスパンの間伐方式ですので手間もかかりません。真理とはこんなものなのかもしれません。更に、間伐した材を整理のため玉切りしたりしないで放置しておくことでシカやカモシカによる獣害も防ぐことができるようですし、その間伐材が土留めになったり腐敗して堆肥になっていき有機的な働きをするようになります。余談ですが、このシカ・カモシカの害獣対策については11月25日のNHK番組「ご近所の底力」でシカの獣害対策としてシカの入らない間伐方法を実際に行った現場を紹介したビデオで鋸谷さんが登場されるようです。
翌日、現場で実習をしました。密度管理竿をつかって樹高測定、形状比の算定から、選木を実施しました。通常の間伐では必要のない木を選んで間伐していきますが、鋸谷式では残したい木を選木し他を間伐しますそのため残したいと思う木を選んでくださいといわれて、これはどうですか残しますかと話し合い、参加者の合意で決めていきました。現場での選木をしてみるとほぼ数値としては合っていました。良い木だけでなく、将来必要な木以外でも数値管理上日照の問題とか成長にかかわりがあって残したりする事を学びました。今回の伐採は森林組合に勤務している現役の木こりの方がいましたので、手早く安全、正確に出来ました。その手並みの良さに倒木の際には拍手がおきました。更に、間伐作業と同時におこなう枝打ち(鋸谷式では手間を省くため、間伐と同時に枝打ちを行う)についても鋸谷さんの経験に基づいた技術を細かく伝授され手鋸の使い方やチェーンソーの選び方等々皆さん納得の研修でした。
すぐには役立たないかもしれませんが、本当に有意義な育林ということを考えさせられる研修でした。
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